雇用保険業務取扱要領(行政手引)
- 20301-20500 第3 被保険者
- 20351-20400 2 被保険者の範囲に関する具体例
20351(1) 労働者性の判断を要する場合
法は適用事業に雇用される労働者を被保険者としている(法第4条)。このため、雇用される労働者に該当しない場合には、被保険者とならない。労働者性の判断を要する場合の具体例は次のとおり。
- イ 取締役及び社員、監査役、協同組合等の社団又は財団の役員
- (イ) 株式会社の取締役は、原則として、被保険者としない。取締役であって同時に会社の部長、支店長、工場長等従業員としての身分を有する者は、報酬支払等の面からみて労働者的性格の強い者であって、雇用関係があると認められるものに限り被保険者となる。なお、この場合において、これらの者が失業した場合における失業給付の算定の基礎となる賃金には、取締役としての地位に基づいて受ける役員報酬が含まれないことは当然であるので、これらの者について離職証明書が提出されたときには、この点に留意する。
- (ロ) 代表取締役は被保険者とならない。
- (ハ) 監査役については、会社法上従業員との兼職禁止規定(会社法第335条第2項)があるので、被保険者とならない。ただし、名目的に監査役に就任しているに過ぎず、常態的に従業員として事業主との間に明確な雇用関係があると認められる場合はこの限りでない。
- (ニ) 合名会社、合資会社又は合同会社の社員は株式会社の取締役と同様に取り扱い、原則として被保険者とならない。
- (ホ) 有限会社の取締役は、株式会社の取締役と同様に取り扱い、会社を代表する取締役については、被保険者としない(平成18年5月1日の会社法の施行に伴い、施行日後は、新たに有限会社を設立することはできないこととなったが、施行日前に設立された有限会社は、引き続き、その商号中に有限会社の名称を用いることとされている。)。
- (ヘ) 農業協同組合、漁業協同組合等の役員は、雇用関係が明らかでない限り被保険者とならない。その他の法人又は法人格のない社団若しくは財団(例えば、特定非営利活動法人(NPO法人))の役員は、雇用関係が明らかでない限り被保険者とならない。
- ロ 企業組合の組合員
中小企業等協同組合法に基づく企業組合の組合員は、組合との間に中小企業等協同組合法に基づく組合関係が存在することはもちろんであるが、次の2つの要件を満たしている場合で、企業組合と組合員との間において組合関係とは別に雇用関係も存在することが明らかに認められる場合は、被保険者となる。- (イ) 組合と組合員との間に使用従属の関係があること。すなわち、組合員が組合の行う事業に従事し、組合に労働を提供する場合に、組合員以外の者で組合の行う事業に従事する者と同様に組合の支配に服し、その規律の下に労働を提供していること。
- (ロ) 組合との使用従属関係に基づく労働の提供に対し、その対償として賃金が支払われていること。
- ハ 有限責任事業組合の組合員
有限責任事業組合契約に関する法律(平成17年法律第40号)に規定されている有限責任事業組合(LLP)の組合員は、被保険者とならない。
なお、LLPは従業員を雇用することが可能であるので、LLPに雇用されている従業員については、被保険者となる。 - ニ 農事組合法人等の団体の構成員、家族等
農事組合法人等農林水産業を行う団体が事業主である場合における当該団体の構成員及びその同居の親族並びに当該事業を行う個人が事業主である場合における当該事業主の同居の親族については、当該事業主との間に雇用関係を認めることができない場合も多いが、その就労実態、賃金支払の実態等から明確に雇用関係があると認められる場合は、被保険者となる。この場合、その雇用関係の存否を判断するに当たっては、特に次の点に留意する。
なお、同居の親族であって主として当該団体の構成員又は個人事業主により生計を維持されている者は、通常は雇用関係が認められない場合が多いので、特に慎重に判断する。- (イ) その属する団体の行う事業の経営(事業の計画、実施方法、予算、決算等)が、各構成員ごとにばらばらに行われるのではなく、当該団体の統一ある方針の下で、当該団体の事業として、一体的に行われているかどうか。
- (ロ) その属する団体の主要な各種施設、機械器具等の管理及び使用が当該団体を単位として行われているものであるかどうか。
- (ハ) 従来、農地等の生産手段を所有し、又は使用収益していた者については、その所有権又は使用収益権(地上権、永小作権、使用貸借権)の大部分を当該団体に移転した者であるかどうか。
- (ニ) 当該団体の一体的な指揮監督を受けて当該団体の事業に常時従事する者であるかどうか。
- (ホ) 明確な賃金が支給される者であって、当該団体に労働者名簿、賃金台帳等が整備され、また、給与所得に係る所得税の源泉徴収が行われているかどうか。
- (ヘ) 他の社会保険の被保険者資格の取得状況はどうか。
- (ト) 法人税法第61条の適用を受ける農事組合法人又は漁業組合の組合員でないかどうか。
- ホ 森林組合に雇用される者
森林組合法に基づいて、組織される森林組合が、労働者と直接雇用契約を締結し、他の社会保険においても、労働者と直接雇用関係が成立しているものとして処理されている場合であって、次のイからホまでのすべてに該当するときは、構成事業主の委託を受けた事業を行うために労働者を使用すると認められるので、当該森林組合は適用事業となり、労働者は、原則として、被保険者となる。- (イ) 当該森林組合の事業経営(事業計画、施行、予算、決算等)、労働者の配置が事業として統一ある方針のもとに一体的に行われていること。
- (ロ) 当該森林組合が構成事業主から施業委託を受け、当該契約に基づいて事業を行っていること。
- (ハ) 当事者間に直接文書による雇用契約が締結されていること。
- (ニ) 労働者が当該森林組合の一体的な指揮監督を受けて専ら当該森林組合の事業に従事していること。
- (ホ) 当該森林組合に就業規則、労働者名簿、賃金台帳等が整備され、また、当該森林組合に雇用される労働者として給与所得に係る所得税の源泉徴収が行われていること。
- ヘ 生命保険会社の外務員等
- (イ) 生命保険会社の外務員、損害保険会社の外務員、証券会社の外務員、金融会社、商社等の外務員等については、その職務の内容、服務の態様、給与の算出方法等の実態により判断して雇用関係が明確である場合は、被保険者となる。
この場合において、雇用関係が明確であるためには、単に固定給が支給されること、就業規則があること、出勤義務があること等の一、二のみをもって判断されるべきではなく、職務の内容及び服務が事業主から支配を受け、その規律の下に労働を提供するものであって、会社に対する損害や成績不良につき一般社員と同様な何らかの制裁を受ける場合とする。これらの者が出勤と称しても、単に委任の規定による受任者の報告、受任者の受取物引渡しのためでないかについて検討しなければならず、また、固定給的報酬を受けていても、委任関係に基づく報酬の一部となることもある。 - (ロ) これらの者の雇用関係の有無についての一応の判断を示せば次のとおりである。
- a 生命保険会社の外務員は、その職務の内容、服務の態様、給与の算出方法等からみて雇用関係が明確でないので、通常は被保険者とならない。
しかしながら、次の(a)、(b)又は(c)に掲げる生命保険外務員については、雇用関係が明確であると認められるので、これらの事業主又は労働者から申出があった場合は、その実態を確認の上、被保険者とする。- (a) 支部長その他機関長として所属外務員の出勤管理、契約募集業務の指導等の管理監督的業務に従事する者。
- (b) 集金業務を兼ね行う月掛外務員(委任契約によるものを除く。)であって次の要件のすべてを満たしているもの。
- (i) 出勤義務が課されていること。
- (ii) 毎月の賃金額が安定していること。
- (c) 専ら保険契約の募集勧誘に従事する者であって、次の要件のすべてを満たすもの。
- (i) 出勤義務が課されていること。
- (ii) 業務の活動状況について報告義務があること。
- (iii) 兼業が認められていないこと。
- (iv) 毎月の賃金額が安定していること。
- (d) なお、被保険者資格の取得の確認を行うに当たっては、次の点に留意する。
- (i) 被保険者の範囲、賃金の範囲等については、事業所の所在地を管轄する安定所の長は、主管課を経由して本店所在地の主管課と協議の上決定すること。
- (ii) 同一の会社組織に属する者については、同一の種類の外務員である限り、たとえ一部地方の実態が他の地方のそれと若干異なる場合があっても、統一的な取扱いを行うものとすること。したがって、(ii)の決定があった場合は、主管課は本省及び関係都道府県労働局へ連絡、通知すること。
- b 損害保険会社の外務員は、通常、専ら募集業務に従事する者であるが、これらの外務員は事業主の指揮監督を受けて労働に従事しなければならないことが多く、かつ、これらの者の受ける報酬は、固定給の占める比率が高いものであるから、これらの外務員は、一般には、被保険者となる。
- c 損害保険会社のうちには、募集業務は代理店のみに行わせ、外務員と称せられる者は、代理店の監督を行うのみのものもあるが、これらの者は、通常、雇用関係が明確であるから、被保険者となる。
- d 損害保険会社のうち簡易保険(月掛保険)を取り扱う会社にあっては、簡易保険の募集に従事する外務員は、財務省においても、生命保険の外務員と同様に取り扱われており、かつ、その服務の態様、報酬の支払方法も類似しているので、生命保険の外務員と同様に取り扱う。
- e 証券業者の有価証券外務員は、有価証券の募集若しくは売買又は証券市場における売買取引の勧誘の業務に従事し、一般的には、事業主との間に雇用関係が存在することが多いので、このような者は、被保険者となる(証券取引法参照)。
- a 生命保険会社の外務員は、その職務の内容、服務の態様、給与の算出方法等からみて雇用関係が明確でないので、通常は被保険者とならない。
- (イ) 生命保険会社の外務員、損害保険会社の外務員、証券会社の外務員、金融会社、商社等の外務員等については、その職務の内容、服務の態様、給与の算出方法等の実態により判断して雇用関係が明確である場合は、被保険者となる。
- ト 旅館、料理店、飲食店、その他接客業又は娯楽場の事業に雇用される者
当該事業主との間に雇用関係のない者(場所又は衣類の賃借の料金、食費等その者の稼働に関係なく当該事業主に一定額を支払い、自営業若しくは自前と認められる者を含む。)は、被保険者とならないが、その他の者は、雇用関係の存在する限り、被保険者となる。この場合、固定給はもちろん、チップ、チケット代等の名目であっても一度事業主の手を通して再分配されるものは、その額の多少を問わず賃金とみなす。 - チ 家事使用人
家事使用人は被保険者とならない。ただし、適用事業に雇用されて主として家事以外の労働に従事することを本務とする者は、家事に使用されることがあっても被保険者となる。 - リ 同居の親族
個人事業の事業主と同居している親族は、原則として被保険者としない。
法人の代表者と同居している親族については、通常の被保険者の場合の判断と異なるものではないが、形式的には法人であっても、実質的には代表者の個人事業と同様と認められる場合(例えば、個人事業が税金対策等のためにのみ法人としている場合、株式や出資の全部又は大部分を当該代表者やその親族のみで保有して取締役会や株主総会等がほとんど開催されていないような状況にある場合のように、実質的に法人としての活動が行われていない場合)があり、この場合は、個人事 業主と同居の親族の場合と同様、原則として被保険者としない。
なお、同居の親族であっても、次の(イ)~(ハ)の条件を満たすものについては、被保険者として取り扱う。- (イ) 業務を行うにつき、事業主の指揮命令に従っていることが明確であること。
- (ロ) 就業の実態が当該事業所における他の労働者と同様であり、賃金もこれに応じて支払われていること。特に、
- a 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等
- b 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期等について、就業規則その他これに準ずるものに定めるところにより、その管理が他の労働者と同様になされていること。
- (ハ) 事業主と利益を一にする地位(取締役等)にないこと(20351のイ参照)。
- ヌ 授産施設の作業員
授産施設は、身体上若しくは精神上の理由又は世帯の事情により就業能力の限られている者、雇用されることが困難な者等に対して、就労又は技能の習得のために必要な機会及び便宜を与えて、その自立を助長することを目的とする社会福祉施設であり、その作業員(職員は除く。)は、原則として、被保険者とならない。 - ル 在宅勤務者
在宅勤務者(労働日の全部又はその大部分について事業所への出勤を免除され、かつ、自己の住所又は居所において勤務することを常とする者をいう。)については、事業所勤務労働者との同一性が確認できれば原則として被保険者となりうる。
この事業所勤務労働者との同一性とは、所属事業所において勤務する他の労働者と同一の就業規則等の諸規定(その性質上在宅勤務者に適用できない条項を除く。)が適用されること(在宅勤務者に関する特別の就業規則等(労働条件、福利厚生が他の労働者とおおむね同等以上であるものに限る。)が適用される場合を含む。)をいう。
なお、この事業所勤務労働者との同一性を判断するにあたっては、次の点に留意した上で総合的に判断することとする。- (イ) 指揮監督系統の明確性
在宅勤務者の業務遂行状況を直接的に管理することが可能な特定の事業所が、当該在宅勤務者の所属事業所として指定されていること - (ロ) 拘束時間等の明確性
- a 所定労働日及び休日が就業規則、勤務計画表等により予め特定されていること
- b 各労働日の始業及び終業時刻、休憩時間等が就業規則等に明示されていること
- (ハ) 勤務管理の明確性
各日の始業、終業時刻等の勤務実績が、事業主により把握されていること - (ニ) 報酬の労働対償性の明確性
報酬中に月給、日給、時間給等勤務した期間又は時間を基礎として算定される部分があること - (ホ) 請負・委任的色彩の不存在
- a 機械、器具、原材料等の購入、賃借、保守整備、損傷(労働者の故意・過失によるものを除く。)、事業主や顧客等との通信費用等について本人の金銭的負担がないこと又は事業主の全額負担であることが、雇用契約書、就業規則等に明示されていること
- b 他の事業主の業務への従事禁止について、雇用契約書、就業規則等に明示されていること
- (イ) 指揮監督系統の明確性